悪魔の実、能力者は実在
わすれゆきキャスト紹介9中山ヨシロヲ:猿田彦一役
ワンピースの悪魔の実って、なぜできたのか?
ドクターベガパンクの説明によると、人間の
「こういうふうになりたい。」
「こんなことができたらいいな。」
という願いが実となり、能力として結実したとのこと。
ドラえもんで言えば、
「あんなこといいな、できたらいいな。」
という願いが秘密道具になる。
ジョジョの奇妙な冒険で言えば、スタンド使いの本体の精神力がスタンド能力として具現化される。
ハンターハンターの念能力もそうですし、呪術廻戦もそうですよね。
漫画の世界では、人の願いや精神が能力として形になる作品がたくさんあります。
でも僕は、役者をやっていると、
「ああ、あれって漫画だけの話じゃないんだ。」
と思うことがあるんです。
人にそう感じさせる力というのは、確かにあるんですよね。
だからこそ漫画では、それが能力という形で描かれていても読者は「さもありなん」と受け入れて読めるのだろうと思います。
演劇やってると、悪魔の実やスタンド能力、念能力というのが本当にあるのかもしれないと感じる。
もちろん、物理的に空間をねじ曲げたり、時間を止めたりするような能力ではありません。
でも技術や経験では説明できない、役者特有の何かを感じるのです。
特に長年役者をやっている人ほど、能力者が多い。
今回の座組でその能力を、一番強く感じる役者がヨシロヲさんなんです。
ヨシロヲさんは、この座組で一番のベテラン。
何十年も舞台に立ち続けている方です。
たぶん僕が生まれた頃、いや、生まれる前から舞台に立っていたんじゃないでしょうか。
途切れることなく、ずっと舞台に立ち続けている役者さんです。たぶん。
ヨシロヲさんがセリフを一言発した瞬間に、芝居の世界へ引きずり込まれるんです。
舞台が一気に「芝居」になる。
呪術廻戦でいえば領域展開でしょうかね。
それだけ言葉に力がある役者なんです。
役者にもそれぞれ個性があります。
悪魔の実の能力が一人ひとり違うように。
僕がヨシロヲさんの芝居を見ていて感じる能力は、
「舞台を液状化させる能力」
なんです。
床が液状化するんですよ。
地震で道路が液状化するように、舞台の床がドロドロに溶けていく感覚。
そして、その液状化した舞台に、お客さんも共演者も、どんどん沈められていく。
芝居という底なし沼へ引きずり込む。
そんな感覚になります。
すごい能力。
僕がヨシロヲさんを初めて見たのは、お芝居ではありませんでした。
バーだったのかな。
ステージのあるお店で、いろんな役者さんやパフォーマーが芸を披露するイベントがあったんです。
そこでヨシロヲさんが、美輪明宏さんになりきって、お客さんをいじり倒すパフォーマンスをしていました。
あれは衝撃でした。
ただのものまねじゃないんです。
ヨシロヲさんの言葉が、まるで粘土のように客席に飛びついて、
言葉そのものが粘土になって飛んできて、観客にまとわりつく。
一度捕まったら、もう抜け出せない。
そんな感覚になりました。
それが僕が初めて受けたヨシロヲさんの衝撃でした。
それから1年後。
ひろしくんと初共演した、新選組の舞台にヨシロヲさんも出演されていました。
それが初めての共演。
ヨシロヲさんが演じたのは、新選組局長・芹沢鴨。
芹沢鴨って、剣の達人なんですよね。
近藤勇や土方歳三、沖田総司でさえも勝てなかったんじゃないかと言われるくらいの、とてつもない剣士です。
でも、たぶんヨシロヲさんって、殺陣をガンガンやるタイプの役者ではないと思うんです。
だから最初は、
「どうやって芹沢鴨を演じるんだろう。」
と思っていました。
ところが、その見せ方がすごかった。
芹沢鴨が暗殺される場面なんですが、普通ならチャンバラで激しく戦うシーンになるじゃないですか。
でも違ったんです。
僕は、その暗殺する側の一人としてヨシロヲさんに対峙しました。
こちらは刀で斬りかかる。
でもヨシロヲさんは、剣では戦わない。
言葉を放つ。
斬られながら。
囲まれながら。
息絶え絶えになりながらも、なお言葉を放ち続ける。
その言葉だけで圧倒される。
こちらは刀で斬っているのに、向こうはセリフで斬り返してくる。
結局、数人がかりでやっと倒せた。
そんな感覚になるんです。
あのシーンを体験した時、
「なるほど、芹沢鴨という役は、この人がやるべき役だったんだ。」
と心から思いました。
初めてパフォーマンスを見た時も衝撃でした。
初めて共演した時も衝撃でした。
長年舞台を続けてきた役者というのは、こんなにも存在感があって、こんなにも言葉だけで人を圧倒できるものなのか。
改めて思い知らされました。
そして、その言葉を聞いていると、最初に話した悪魔の実の能力みたいなものが、やっぱり見えてくるんですよね。
ヨシロヲさんは、舞台を液状化させる。
地面を溶かし。
観客も共演者も。
芝居という底なし沼へ沈めていく。
そんな能力を持った役者なんだと、僕は感じています。
そんなヨシロヲさんが今回演じる役は、
猿田彦一。
猿田が名字で、彦一が名前です。
ちなみに、この名前のモチーフはコーヒー屋さんではありません。
猿田彦珈琲ではありません。
古事記や日本書紀に登場する神様。
猿田彦大神が由来です。
天孫降臨の時に、天照大御神の孫であるニニギノミコトを地上まで道案内した神様ですね。
そのことから猿田彦大神は、
「物事を良い方向へ導く神様」
として信仰されています。
そして、この『わすれゆき』の中でも、
「導く」
という役割が、この猿田彦という名前に込められているんでしょうね。
もちろん、それがどんなふうに物語へ関わっていくのかは、本番を観てのお楽しみです。
この名前がどんな意味を持ち、どんな方向へ物語を導いていくのか。
そこもぜひ楽しみにしていただきたいところです。
そして最後に、この場を借りてヨシロヲさんへ1つお願いがあります。
昨日の通し稽古で言えなかったので、共演者の誰でもよいです。
誰かこのキャスト紹介を読んで伝えてください。
とあるシーンで、ヨシロヲさんが僕の背中をポンと叩く場面があるんです。
でもですね。
ヨシロヲさんたら、回を増すごとに気持ちが増していくので、
気持ちが乗れば乗るほど。
作品が仕上がれば仕上がるほど。
日に日に叩く力が強くなってきてるんですよ。
昨日なんか、背中をポンどころではありません。
「ドパーン!」
いや、ハイキューの変人速攻の効果音か!
っていうくらい、けっこうな音が鳴りまして。
「うげっ。」
ってなったんです。
その直後に僕、セリフがあるので、一呼吸置かないと苦しいんですよね。
ヨシロヲさん。
叩く時は、
「強く叩くフリ。」
でお願いします。
できれば、なるべく優しく叩いていただけると助かります。
以上。
キャスト紹介の締めくくりを、1つのお願いに代えさせていただきます。


